「自分でご飯を炊いて、おむすびを作れば材料代と水光熱費合わせても1個当たり30円でできますよ。コンビニで100円近い値段でおむすびを買っていませんか」

もう20年近く前に、香川県内の中学校校長時代、講演先の幼稚園でこう問うと、お母さんたちは気まずそうな表情になりました。

「それに、ペットボトルのお茶だって自分で作れば、500mlで10円かかりませんよ」と講師用に用意してくれていたペットボトルを持ち上げると、即座に最前列のPTA会長が「お茶って家で作れるんですか」と反応したのです。私は予期せぬツッコミにしばし言葉を飲み込み、「お茶の木を植えるつもりかな」と考えていた間、PTA会長は真顔でした。

「ええ、やかんでお湯を沸かしてお茶の葉を入れるとできます」と答えると、「ウッソー。そんなことしているお母さんを見たことがない」と言い切りました。PTA会長の家庭は子どもの頃も、嫁いできてからも、いつもスーパーで買ってきたペットボトルのお茶を飲んできたというのです。

10年程のち、○○県の幼稚園でそのPTA会長と再会しました。あのときの場面を彼女も私も鮮明に記憶していました。

「あれから3年後に離婚して、子ども4人を連れてこっちに引っ越したの。ここは下の2人のわが子が通った幼稚園で、近所の人が見せてくれた講演会のチラシで先生の名前を見つけたから懐かしくて今夜は聞きに来ました。先生、あれからメッチャがんばったよ。お茶も淹れられるし、ご飯も炊けるし、ハンバーグも作れるし。子どもも台所に立たせてきたんやから」

離婚に際して姑さんと彼女の激しいバトルは近所でも大変な噂になったそうだ。お互いの主張の内容を私は尋ねなかったし、彼女も話そうとしませんでした。分かっているのは4人の子どもを全部引き取って育てているということです。そして、子どもの食事作りから全く逃げていない、いやむしろ楽しんでいることが何より嬉しかったです。たとえ一人親の家庭でも、子育てを楽しめば子どもは健やかに育つことを長い教師経験で知っているからです。

料理を楽しめる心と体づくりが良い子育てに効果的らしいと、想いを強めているこの頃です。

文・子どもが作る“弁当の日”提唱者 竹下和男