「弁当の日」モデル校

大阪府高槻市立大冠小学校

OOKANMURI SCHOOL

導入者

関 美和子
せき・みわこ

教諭

「弁当の日」を始めるまで

Q 所属する学校について教えてください。

本校は、大阪府高槻市の中心部に位置し、東には淀川が流れ、西には国道170号線が通っており、運動場のすぐ横を東海道新幹線が走っています。1965年4月1日に開校し、約55年の歴史があります。各学年2クラスの比較的小規模の学校で、2021年度は301名の児童が在籍しています。

Q 「弁当の日」を始めたきっかけは?

2018年8月に中学校区のPTA講演会で竹下和男(たけした・かずお)先生の講演を聴いたことです。当時の校長が講演に感銘を受け、「弁当の日」のねらいと本校の実態が一致していると感じたことから始まりました。

Q 実施にあたり、どなたかに相談されましたか?

校内では常に校長に相談していました。竹下先生の著書もたくさん読みました。中学校区での取り組みが始まってからは、年に数回、各校の「弁当の日」の担当が集まって相談をしています。栄養教諭の方が知識も豊富な上に食に関するプリント作りが上手なので、アイデアをもらっています。

Q 校長先生や周りの先生方の反応は?

校長は一日でも早くスタートしたいという思いを強く持っていました。ありがたいことに他の先生方にも受け入れてもらえました。先生方の役割を明確にしたのが良かったのかもしれません。子どもたちがお弁当を作るのは家庭です。先生方には、①弁当の日の前に呼びかけや準備をする、②取り組んできた子どもたちを褒める(写真撮影も)、③高学年がやる気を持てるようにペア学年で一緒にお弁当を食べるなどの場を設定する、の3つをお願いしました。「先生方も自分でお弁当を作ってくださいね!」という投げかけには、さすがに「え!?」という声もありましたが(笑)。

職員会議向けに作成した資料

Q 実施に向けて、周辺の学校や教育委員会、地域の方にも対応をされましたか。

中学校区では、本校が一番早く取り組みを始めました。次年度の2019年度には中学校区での取り組みも始まり、「お弁当部会」という「弁当の日」の担当者が集まる会議もできました。教員の共通理解を図るため、2019年8月には、校区の教員全員で竹下和男先生の講演を聴くことにしました。
地域の方は「弁当の日」の取り組みを応援してくださいました。地域の方主催の「放課後子ども教室」や「大冠キッズカフェ(子ども食堂)」でも、子どもたちが料理をする活動を入れてもらい、少しでも料理に関わる機会を増やしています。京都吉兆の料理人さんに来てもらって一緒にお味噌汁を作ることもしました。プロに触れる機会は子どもたちにも刺激になりました。

弁当の日提唱者・竹下和男先生の講演

Q 実施までどれくらいの準備期間を設けましたか?

2018年10月に初めて行ったときの準備期間は2カ月弱でした。先生方への周知、保護者へのお知らせ、「お弁当チャレンジコース」の作成をして、とりあえず今できる範囲でやってみよう!と急いで準備をしました。その後は、子どもたちの様子を見ながら、毎回修正を繰り返しています。

学年ごとに異なるコースを設定した「お弁当チャレンジコース」

「弁当の日」実施の流れ

Q どのように「弁当の日」を実施していますか。

毎年、5月(春の遠足)、10月、11月(秋の遠足)の3回は全校で実施できるようにしています。その他、お弁当が必要なときは、学年ごとの実施もOKにしています。まずは4月の学級懇談会で、保護者の方に「弁当の日」への協力をお願いします。実施日の前には、実施のお知らせも配布しています。2020年度からは給食委員の児童にも、「弁当の日」のポスター作りやクラスへの呼びかけを協力してもらっているので心強いです。「全校で一番自作弁当の多いクラスになるように頑張りましょう!」と張り切っていた6年生がいました。教師が声をかけるより子どもたち同士の方がいいのかな、なんて思っています。

※新型コロナウイルス感染症予防のため、現在はマスクを着用したまま友人たちと弁当を見せ合い、その後自席に着席し、全員黒板のほうを向いて黙食しています。

実施を知らせる校内のポスター

Q 取り組みの仕方で何か工夫されていますか?

年度の初回は、どの学年でも「弁当の日」がどんな取り組みなのか、なぜするのかということをプリントで確認します。高学年では、自分が作りたい弁当のメニューを書いたり、イラストを描いたりして持ち帰り、自分からお家の人に“一人で作る宣言”するところからが「弁当の日」のスタートです。
「弁当の日」に合わせて、家庭科の学習では“調味料の授業”もしました。まずは、教師が作った5つの野菜炒めを試食。何で味付けをしているのか当ててもらった後、自分が食べたい味付けで野菜炒めを作りました。その日は、一品だけ入るスペースを空けてお弁当を持ってきていたので、自分が作った野菜炒めを詰めたら完成。弁当作りを難しく考えていた子の発想をちょっと変えられたかな、と思った取り組みでした。

実施前に1~4年生、高学年に配るプリント

子どもたちが考えたメニュー

Q 実施後の振り返りは、どのように行っていますか?

毎回たくさん写真を撮ります。子どもたちの思いたっぷり、一生懸命がたっぷりの弁当と、作ったぞ!と誇らしげな子どもたちを写真に収めています。また、クラスごとにアンケートをとっています。どんなことに挑戦したのかを把握し、次につなげていくためです。高学年は、自分の弁当自慢カードを書いています。カードは「弁当と自分」の写真を貼って完成です。ここでも給食委員が大活躍。クラスごとにカードをまとめて、掲示しています。掲示の前に子どもたちが集まって「この弁当すごいなあ!」と会話しているのを見ると、思わず笑顔になりますね。

5年生が作成した弁当自慢カード

Q 子どもたちの反応は?事前、当日またはその後の変化は?

弁当を持ってくる、イコール「弁当の日」が浸透しているので、「弁当の日? やったー」と楽しみにしてくれる子が増えました。「弁当の日」の前は、「何作る?」という会話や「弁当の日」には、「お弁当見せて!」「〇〇ちゃん、これ全部自分で作ったんだって! すごーい!」と褒め合う会話があって…。“弁当”一つで会話が増えて、楽しみや褒め合うことも増えるなんて最高ですよね。2020年はコロナ禍でなかなか機会を作ることができなかったのですが、冬にようやく「弁当の日」ができると分かったとき、5年生の女の子が「楽しみすぎて寝られない」と言っていたのです。そういう子が一人でも増えてくれたら嬉しいので、継続が大切だと改めて思いました。

Q 学校全体として変化はありましたか?

竹下先生の講演中に、「弁当の日の目的は、食による負の連鎖を断ち切る」という内容がありました。「弁当の日」を始めたきっかけが、負の連鎖を断ち切るだったので、その点に関していうと変化があったのかなと思っています。「弁当の日」の当日、正門で子どもたちを迎えている校長に、2年生の児童が言った言葉が印象的でした。「お母さん全然起きないねん。だから私、全部自分で作ってきたで。すごいやろ!」 子どもたちは少しずつ自立に向けて歩み出しています。

Q 保護者の反応は?

1年生の保護者からの連絡帳です。「家に帰ってきたら、自分からお弁当箱を洗い始めました。こんなことは今までになかったので、とてもびっくりしましたが、成長を感じられて嬉しかったです」「いきなり水筒にお茶を入れ始めたのでどうしたのだろうと驚きました。弁当の日で水筒コースを選んでいたからのようです。弁当の日はまだ先ですが、やる気があるのでこのまま続けてもらいます」。他にも、「自分からやろうとして良い取り組みだと思うよ」「めずらしく早く起きていました」など協力的な声もたくさんありましたが、「子どもだけで作れるわけではないので、親も一緒にいるとなると余計に大変なんです。一人で作った方が早いのに」というご意見もありました。ねらいを丁寧に説明し、根気良く協力をお願いし続けていくことが大事だなと思っています。

Q 実施して良かったと思う点。

子どもたちもそうですが、先生たちも「お弁当」一つですごく盛り上がるんです。「弁当の日」の前日は、「明日、何弁当にするの?」とか「お弁当の材料買って帰ります!」とか、みんなお弁当を気にしています。世界の料理を順番に作ってくる先生もいて…。先生たちも楽しく取り組んでいる雰囲気は、子どもたちにも伝わっているのかなと感じています。

実施に向けたアドバイス

Q 実施を検討している学校に向けて。

すぐに結果を求めず、学校全体で長く取り組んでいける形を探してチャレンジしてみるのがポイントではないでしょうか。「弁当の日」がスタートしてから今年で4年目。まだまだ課題はたくさんあります。しかし、始める前より子どもたちがお弁当を「自分でもできること」として考えられるようになっていると感じます。「やってみたいな」「私のもできそうかも!」と思える子が増えてきた一番の要因は、お弁当を作ってきた日の交流や子どもたちの様子をまとめた掲示ではないかと思います。これから始められる方は、子どもたちがやってきたことを子どもたち同士が見合い、褒め合えるかたちを工夫していくのがポイントではないでしょうか。

Q 実施を目指している方々に伝えたいこと。

担当する学年の畑で、毎年野菜を育てています。ナスを育てたときは、収穫したものをホットプレートで焼いて、醤油をかけて子どもたちと食べます。とても簡単な調理方法ですが、子どもたちは「このナスが一番おいしい」「ナスはあまり好きではなかったけど、これは食べられる」と言います。自分で育てたものや、自分で調理したものはおいしいとよく言われていますが、ナスを食べる子どもたちを見ると“まさに”です。学年が変わっても「ナスまた作る? あれ、めっちゃおいしいねんなぁ」と、おいしいことを覚えています。
食べることは生きることです。「食」は人を幸せにし、笑顔にすることができます。“楽しい”と“おいしい”の連鎖が、子どもたちの「食」の未来を作り出していくのではないでしょうか。作ってくれた人にありがとうを伝える、水筒にお茶を入れる、おにぎりを握るなど、できることを自分で見つけてチャレンジすることが「弁当の日」だと思います。「弁当の日」を通して、子どもたちが食に関わり、自分で作ることの楽しさとおいしい記憶を一緒に増やしていくことで、“自分で作ること”ができる自立した大人になってほしいと願っています。

各コースの弁当を手にした子どもたちと自作弁当を掲げる先生たち