「弁当の日」モデル校

江戸川区立平井西小学校

HIRAINISHI SCHOOL

導入者

春日 静子
かすが・しずこ

校長(2022年退職)

「弁当の日」を始めるまで

Q 所属する学校について教えてください。

本校は今年度開校70周年を迎える、歴史と伝統のある学校です。東にスーパー堤防で守られた荒川(旧荒川放水路)、西にスカイツリーを背に美しい景観の旧中川を配し、自然に恵まれた環境にあります。地域は、温かい平井西町会に支えられた静かな住宅地となっています。各学年2学級で12学級、全校児童数360名(2021年4月現在)です。
2019年6月に竹下和男先生のご講演を拝聴し、感動しました。その後、先生の著書「100年未来の家族へ」をはじめ、何冊もの書籍を読み、ぜひ子どもたちに「食べるものを調理できる力」を身につけさせたいと思いました。そこで、キャリア教育「くらし・まなび・あそびの時間」を学校経営の根幹とし、「くらしの時間」の取り組みの一つに「弁当の日」の活動を実践しようと考えました。いきなり「弁当の日」を実施するには無理がありますので、初めは「おにぎり作り」からスタートすることにしました。

Q 「おにぎり作り」では具体的に何をしましたか?

5、6年生向けに、夏休み中に「おにぎりを作ろう」という課題を出しました。各自、自宅でおにぎりを作り、おにぎりの絵や写真入りのワークシートを作成して、2学期に紹介し合うというものです。
その際に、学校に隣接する児童館「共育プラザ平井」が、「中高生を対象に日常的な食事を自ら調理できる力をつけ、皆で食事を楽しむことを目的とした食事事業の展開」を目指していたので、夏休み中に「おにぎり作り」の活動をしてくださるようお願いしました。地域の民生指導員が講師を務め、小中学生30人が参加しました。卵焼きやみそ汁も教えていただき、大好評でした。

児童館「共育プラザ平井」で開催された「おにぎりを作ろう!」

Q 学校に自分が調理したものを持って来る活動はどのように始めましたか。

5、6年生の9月の土曜日の公開授業で、「おにぎり名人になろう」という授業を行いました。朝、自宅で作ってきたおにぎりを皆の前で紹介し、一緒に食べました。その後、ワークシートに工夫したことや、感想を書きました。
「子ども朝ごはん食堂」にも取り組みました。学校の始業前に、子どもたちが「朝ごはんをしっかり食べて」元気よく1日を過ごせるようにするための活動です。2日間で約90人の児童(1~6年)が参加し、民生児童員が講師をしていましたが、すでに「おにぎり名人になろう」の活動をしていた5、6年生も1~4年生に教えていました。
子どもたちが元気よく始業できること、地域の方々との温かい交流ができることなど、とても良い取り組みだったので、定期的に継続していきたいなと思いました。その後、江戸川区の施策の一つとして「子ども朝ごはん食堂」が提示されました。でも、コロナ禍のため、一時停止しています。今後、再開する予定です。

「子ども朝ごはん食堂」でおにぎりを作る子どもたち

「子ども朝ごはん食堂」をご支援いただいた地域の皆さんと江戸川区長の斉藤猛さん(中心)

Q 校長という立場で「弁当の日」の取り組みを推進されています。教員の反応はいかがでしたか。

教員には竹下和男先生の書籍や講演会の内容を伝えていましたので、教員からの反対はなく、とても協力的でした。いきなり「弁当の日」の取り組みを実施したのではなく、地域の方々や保護者のご支援をいただきながら無理なく進めてきたのが良かったのだと思います。

Q 保護者には具体的にどのように伝えましたか。

江戸川区小中PTA連合主催で、竹下和男先生の講演会を実施していただきました。約300人の保護者が参加し、多くの肯定的な感想をいただきました。PTAの本部役員10人ほどが、内容に大変感銘を受けたといって役員としても協力したいとの申し出があり、「弁当の日」担当のPTA役員である弁当の日副会長を任命していただきました。
講演会は2020年2月のことでしたが、その直後の3月に、学校が臨時休校になってしまいました。

江戸川区小中PTA連合主催の竹下和男先生講演会

コロナ禍の対応

Q 休校中にはどのように対応しましたか。

電話で子どもたちの様子を確認していましたが、学校だよりを通じて、「世の中何が起こるかわからないこと」「何か大変なことがあった時、あわてないこと」「残念なマイナスなことがあっても、自分はそこからプラスになることを考えて行動すること」を子どもたちに伝えました。特に、「くらし・まなび・あそびの時間」に目当てをもって頑張らせるようにしました。また、調理の動画を作成し、学校のホームページで公開しました。

休校中に発行した学校だより

Q 「くらし・まなび・あそびの時間」とは?

子どもたちが生きていく上で大切な時間のことで、これを本校では自立のための「キャリア教育」と捉えることにしました。この3つの時間の目当てを一人一人が立てて、工夫して過ごしてほしいと伝えたんです。中でも「くらしの時間」は調理や掃除、洗濯などの自立に向けた基本的な衣食住の時間を指します。休校中に全家庭に電話で子どもたちの様子を確認したところ、子どもたちは、掃除や食器洗い、洗濯だけでなく、家族や自分のための食事作り、おやつ作りにもチャレンジしていたことが分かりました。
4、5月も臨時休校が続き、「調理の力はプログラミング的思考」として、食事やおやつ作りの動画を作成し、公開しました。それを見ながら調理をした子どもたちが大勢いました。また、5、6年生には「愛のお弁当作り」という課題を出し、家族のためにお弁当を作り、それをワークシートに記録してもらいました。
その年の夏は例年より短い休みでしたが、全学年、「くらしの時間」で家族の食事作りに関わってもらいました。

キャリア教育「くらし・まなび・あそびの時間」のめあてカード

短期夏休み前に発行した学校だより

夏休みの課題「愛のお弁当作り」の掲示

Q 「弁当の日おいしい記憶のエピソード」の応募を推進されているようです。エピソードの応募は、子どもたちの成長にどんな効果がありましたか。

夏休みの食事作りの効果があったのか、「弁当の日おいしい記憶のエピソード」に有志が応募し、1年生男児が特別賞を受賞しました。「食べること」は「生きること」です。どの家庭でも調理はしています。子どもたちが家族の一員として調理に関わることは、自立に繋がります。どんな調理も家族とのエピソードがありますので、それを意識して文章にすることで、調理の大切さが自覚できていきました。

「弁当の日おいしい記憶のエピソード」で特別賞を受賞した1年生の作文

コロナ禍を乗り越えて

Q コロナ禍で一旦中断したその後はどうなりましたか。

2021年6月に再度、本校PTA主催で、竹下和男先生の講演会を実施しました。「弁当の日で何が育つか 自立を目指した食育」という演題でした。コロナ禍のため、参加人数を100人に絞り、参加できなかった保護者や地域の方向けに、1カ月間、動画配信を行ったんです。「子育てを楽しむ。親も成長し続ける」がテーマで、視聴後、多数の保護者より肯定的なご感想をいただきました。
次は保護者の感想です。
「心を揺さぶられたお話でした。家事に参加すると、子どもの表情も明るくなる気がします。お互いに無理のないように楽しんで“くらしの力”をつけていけたら良いなと思いました。素敵な講演会でした。ありがとうございました」

竹下和男先生の講演会

Q お子さんたちはどんな取り組みをしましたか。

この年も夏休みの課題として、5、6年生に再び「愛のお弁当作り」に取り組んでもらいました。そして「弁当の日おいしい記憶のエピソード」に5、6年生全員に応募してもらいました。
こうした実践を下地にして、9月11日の土曜授業3、4校時に「Let’s try お弁当を作ろう」という授業を設定しました。5、6年生には当日の朝、自分でお弁当を作り、学校に持参させました。お弁当は各自に配布してあるPCタブレットで撮影して保存し、そのタブレットの画像を教室のモニターに映して、自分が工夫したことや感想を発表しました。発表後には、みんなで一緒にお弁当を食べました。
夏休みの課題だった「弁当の日おいしい記憶のエピソード」には6年生62人、5年生49人が応募し、全校生徒に占める応募者の割合が最も高かったことが認められて、学校賞を受賞することができました。

「Let’s try お弁当を作ろう」の授業

自分の作った弁当について発表する児童

学校賞を受賞した「弁当の日おいしい記憶のエピソード」の表彰式

Q ようやく「弁当の日」が実践できたわけですね。

コロナ禍のため2年もかかりました。自分で作ることにより、「作る大変さ、どうすれば効率よく作れるか、次はもっと上手に作りたい、いつもお弁当を作ってくれる親への感謝の気持ち」を学び合うことができました。
校長としては、自立に繋げるキャリア教育の一つの取り組みとして「弁当の日」を設定し、2022年度の本校の教育課程の「特色ある教育活動」として明記しました。これからも、ぜひ継続していってもらいたいと思っています。

平井西小学校の「令和4年度食に関する指導の全体計画」