1年生の担任を5年間しています。保護者の方々の忙しさは家庭訪問などで実感していますが、そんな保護者に「できないからこそ、今の時期、子どもに色々なことをさせていきましょう」と伝えています。「まだ小さいから」「いつかそのうち」と言われる方も多いのですが、大切なことは、「できるようになる」と信じて子どもを家事に参加させること。その体験の積み重ねが成長を促すからです。

ただ、「自分のことは自分でさせよう」としても、子どもがダラダラするのを見てイライラが募り、厳しく叱る。するとその時だけ集中して取り組むものの、長続きはしません。これを繰り返しているうちに、子どもは「また怒っている」としか思わなくなり、親もイライラの頂点に達します。しかし、手伝いをしたがる時期に、親子で同じ体験を共有できる時間だと考えて一緒に家事をすることで、初めは時間がかかるものも、子どもの色々な成長を見られます。

数年後、教え子の母親からもらった手紙を紹介します。

———好奇心旺盛だった1年生の娘が台所に立つようになったのは先生との出会いがきっかけです。当初は「危ないから包丁を持たせたくない」「教えるのも時間がかかるし面倒くさい」という気持ちがありましたが、先生に褒められると次も頑張ろう。また褒められると、次はもっともっと頑張ろうと、まるで魔法にかかったみたいに娘も私もやる気スイッチが入るのが不思議でした。

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———娘は4年生になった今でも、お父さんのお弁当を作ったり、お料理の手伝いをしてくれます。これまで続いているのは、私の代わりに台所に立った娘に投げかけられる「すごい」「ありがとう」「助かった」等の言葉が、喜びや自信になっているからでしょう。

———思い返せば私の母は、どんなに忙しくても愚痴も言わず、一人で家族のお弁当や料理を作っていました。当時私はそれが当たり前だと思い、感謝もしなければ手伝いもしていませんでした。体調が悪い時や疲れて作りたくない時もあったろうに。どうしてそんな時、母を手伝ってあげなかったのだろう。今、娘が私を手伝ってくれているように。今思えば、昔の自分は恥ずかしく、情けない限りです。今後も娘と台所に立ち、生きる力や感謝、思いやりの心を育んでいきたいと思います。

お母さんは娘の『手料理日記』を作り、親子で食を楽しんでいるそうです。お母さんの笑顔と「ありがとう。あなたがいるから助かるわ」の言葉は魔法の言葉となり、子どもの心は安定します。自分ですることで周りの人が喜んでくれることを嬉しいと思え、自己肯定感が育まれていくのです。こうして子どもが育つ環境が変わることで親自身が成長していくのだと思います。

文・佐世保市立広田小学校教諭 福田泰三