現在の日本社会は食材が豊かになりました。500年前なら季節外れの野菜はなかったし、外国産の肉や魚や果物は入手できませんでした。近隣の地域内で手に入れることができる旬の食材がすべてであったと言っても過言ではありません。


国内でさえ自由に食材の輸送できなかった時代に、日本各地で郷土料理という文化が発展していきました。地元の旬の“あるもの”でしか作れないという制約のなかで、食事を最大限に楽しむ工夫がなされてきたのです。

じつは食材と同じ自然の中で生活している、その土地の人間にとって、消化・吸収に必要な体力(コスト)に負担が少なかったようです。

昨日はナスの煮物、今日はナスの天ぷら、明日はナスの炒め物。毎日ナスのからし漬けに一夜漬け、そしてみそ汁の具材にも。とにかく煮る・焼く・和える・揚げる・蒸すと、調理技術でいろどり・形と目を楽しませ、しょうゆ・ミソ・ソース・酢・塩等の調味料で味わいに変化を持たせ、香りや食感で、ナスばかりのおかずの食卓を多彩にしてきました。

料理は“ある材料”でしか作れないのです。できたものしか食べることはできないのです。私はこの制約が「和食」を世界文化遺産に押し上げたと思っています。

その基本姿勢を日本国中の子どもたちに伝えることの大切さを訴えています。安定した収入を確保するための塾通いや受験勉強よりも、「あるもので作る できたものを食べる」ことの楽しさを身につけさせる方が、心と体の健全な成長のためには最優先させるべきことなのです。漢字や計算、英語の勉強より時間は多くかかりません。

弁当づくりの献立から買い出し・調理・弁当箱詰め・片づけまで全部子どもだけにさせる「子どもが作る“ 弁当の日”」がスタートして20年目になります。“ 弁当の日” の実践校は2300校を優に超えたのですが、実施したけど数年後にやめた学校もあります。

「 結局、親が作るので、親からの不満が多い」
「 学習指導要領にない内容を指導するには、教師に負担が多い」
「 親・教師とも、料理できない人が増えた」

年間で数回の“ 弁当の日” です。真剣に取り組めば効果は絶大です。大人が動けば子どもは育ちます。

文・子どもが作る“弁当の日”提唱者 竹下和男