教員を定年退職して10 年が過ぎました。この間に1800 回近く全国で「子どもが作る弁当の日」を広げるための講演活動をしてきました。ところがコロナ禍です。3 月から5 か月間、講演会がすべてキャンセルになりました。全国の学校が休校になり、仕事がテレワークに移行し始めました。3 密(密集・密接・密閉)は避けなさい。不要不急の外出は控えなさい。県境を越えての移動をしないように…。
わたしは必然的に自宅にこもることが多く、今まで以上に講演ネタを探して新聞やテレビのチェックに時間が使えるようになり、料理の奥深さに感動したり、コロナ禍が家族の食生活に与えた影響に関心が向いたりしました。そのうちのいくつかを紹介します。
サラリーマンの昼食の実態を紹介するテレビ番組が「コロナ後の台所での奮闘ぶりの動画募集をしたら、番組始まって以来の動画の応募がありました」というのです。
3 月に入って全国の学校が休校になったとき、私は「子どものころに、コロナ禍をきっかけに料理ができるようになりました」という世代が育ってくれたらいいのになあと思っていましたが、そうさせた大人たちが全国には結構いたようです。急な休校になったので、家庭科の先生が子どもたちに「家族のために食事を作る」という課題を与えた学校もあったようです。
痛快だったのは、「まったく料理をしたことがない妻が台所に立ち始めました」という内容の動画でした。40 歳は越えているかなと思われる奥さんの奮闘ぶりを旦那さんが撮り、動画を応募したのです。その料理中の稚拙ぶりは「したことがない」ことを見事に伝えていました。わたしが感動したのは、その奥さんが底抜けに明るく、旦那さんが心の底から喜んでいることでした。これまで奥さんが料理をしない結婚生活を夫婦で過ごしてきたことをご夫婦ともに恥じ入る様子もありません。「いいなあ」と思わずうなってしまいました。
「コロナ前は料理できなかったけど、コロナ後はできるようになったよ」
「コロナ前も楽しかったけれど、コロナ後のほうがもっと楽しくなったよ」
男女を問わず、年齢を問わず、子どもが料理をしたがるような環境を大人たちがリードしていきませんか。とっても素晴らしい「生前贈与」になりますよ。
文・子どもが作る″弁当の日″提唱者 竹下和男