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「元来、自然界には『廃棄物』という概念が存在しなかった」
この一文で始まるのが先月出版された『サーキュラーエコノミー実践 オランダに探るビジネスモデル』(安居昭博著・学芸出版社・京都市)だ。生ごみ・プラスチック容器・ペットボトルに缶類など、私たちは日々大量のごみを出している。現在の便利な生活は産業革命以降、人類が発明・開発したさまざまな商品のおかげだが、本来は自然界に存在しなかった人工物が増えたことで、処理できないまま埋め立てられている“ごみ”が多い。結果、近年は埋め立て地の不足が課題となっている。また資源を大量生産・大量消費しているツケが、地球温暖化・異常気象・貧富の格差などの問題を生じさせてしまっている。そして環境問題・社会課題を抱えていたところでの新型コロナウイルスによるパンデミックの発生は、日常生活・医療・経済など社会全体に甚大な影響を与えた。
このような状況を打開する方法として、欧米を中心に進められている政策がサーキュラーエコノミーだ。最近ではテレビや新聞にも取り上げられる機会が増えたが、「サーキュラーエコノミーって何?」「リサイクル、3R政策と何が違うの?」と思っていた人も多いだろう。そこでおすすめするのが上記の新刊だ。ドイツ・キール大学の「Sustainability, Society and the Environment」(サステイナビリティ、社会と環境)学部を卒業(修士)したサーキュラーエコノミーの第一人者である安居氏が、サーキュラーエコノミーを世界で最も推進しているオランダ、そして日本国内の事例をもとに分かりやすく解説している。
新刊で紹介しているのは、廃棄食品を一流シェフが提供するレストラン「Instock(インストック)」・世界初のビーガン&サーキュラーエコノミーのジーンズブランド「MUD Jeans(マッド・ジーンズ)」・メガバンクが設立した分解できる建築(複合施設)「CIRCL(サークル)」などのオランダの事例と、安居氏も携わる「黒川温泉一帯地域サーキュラー・コンポストプロジェクト」など五つの日本発の事例だ。
ものを大量生産・大量消費していた状況を「リニアエコノミー」と呼ぶのに対し、日本が現在取り組んでいる状況が「リユース・リサイクルエコノミー」(アップサイクルも含む)。そして、基本的にごみを排出しないという前提の上で、環境(自然システム)の再生を念頭に置いているのが新刊で扱っている「サーキュラーエコノミー」。もの・資源が円のように循環することから「サーキュラー」といわれている。
現在の生活から考えると、サーキュラーエコノミーは夢物語のように聞こえるかもしれないが、それはこれまでの既成概念や慣習があるからだ。もちろん、既存のビジネスモデルや生活習慣は根本的な変革が求められる。しかし、サーキュラーエコノミーで重視されているのは三つのP(3P)。「Planet(地球環境)」「Profit(経済的利益)」「People(人々の幸福度)」。環境対策は経済利益(企業利益)と反比例の関係にあると思われがちだが、オランダの事例からサーキュラーエコノミーが高い収益率を上げていることが分かる。さらに、アムステルダム市は2015年に発表した「2050年プラン(2050Plan)」で、「サーキュラーエコノミーは環境に良いだけでなく、経済にとっても現在のシステムよりも優れている」と断定している。
安居氏によると、現在こそサーキュラーエコノミーが世界で最も先行しているヨーロッパだが、10年ほど前までは量り売りの専門店はほとんどなかったという。また、オランダでも環境やサーキュラーへの意識が高い人は少数派。しかし、サーキュラーエコノミーを推進させているのは、普段はあまりサステイナビリティに関心を払っていないような消費者たちだという。つまり、サーキュラーエコノミーでも重要なのは魅力的なサービスや商品。その上で、社会課題や環境問題に気付かせる工夫が凝らしてある。そして、私たち消費者である一人一人が実践できることもたくさんある。
詳しくはぜひ『サーキュラーエコノミー実践』(定価は税別2,400円)で。ヨーロッパグリが洗濯洗剤の代わりになることやミニマリストのリアルな暮らしぶりなど、ドイツ・オランダに拠点を持つ安居氏ならではの生活者目線もこの本の魅力になっている。