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世界規模での「コロナ感染拡大」が続くが、抑止への「切り札」となる方策は、いまだ模索が続いている。そうした中、日本列島は近年、地震や台風、前線豪雨などによる災害が頻発し、もう一つの大きな課題を抱えている。「急激な気象変動、豪雨頻発」にどう対処すべきか」――。
■「堤防決壊」「内水氾濫」災害リスクが増大
もう1昨年のことになるが、気候変動による災害リスクの増大を象徴するような出来事が起きた。2019年10月の「東日本台風」(台風19号)では、これまでの記録にはない全国142カ所で河川堤防が決壊した。日本一の大河、千曲川(下流は信濃川)をはじめ、東北の阿武隈川などでも堤防がズタズタになった。
東京、神奈川の都県境となる多摩川でも内水氾濫し「武蔵小杉のタワーマンション」では、地下の電源設備が浸水し1週間以上にわたって、住民生活に大きな支障が出たのは、まだ記憶に新しい。
「台風19号」は静岡、新潟、関東甲信、東北の多くのアメダス観測地点で「3-6-12-24時間降水量」の観測史上1位のデータを更新した。19年の水害被害額は過去最高の2兆1500億円に上り、被災による支払い保険金額も1兆円を超えた。
■忘れない! 災害列島「大地震、津波、台風、豪雨」
豪雨災害ではないが、過去10年で最も大きな犠牲者を出したのが、11年3月の東日本大震災。死者・行方不明者に災害関連死を合わせると2万人を超す。岩手、宮城両県の津波被災地域は徐々に復興の姿を見せてきたが、福島の原発事故被災地は「いまなお時が止まったまま」。帰宅困難地域が広範囲にわたり、残されている。
間もなく「3・11」から10年となる。あらためて犠牲になられた方々のご冥福を祈りたい。そして、いまなおふるさとに戻れない人々のことを、忘れてはならない。「忘れない!」は決意の言葉だ。
■JAPIC提言「3つのポイント」
これらの頻発する豪雨災害などを前にして「こうした危機的状況に手をこまねいていてはいけない」と、専門家グループが立ち上がった。建設や鉄鋼関連企業で構成する「日本プロジェクト産業協議会」(JAPIC、会長・進藤孝生日本製鉄会長)の傘下にある「国土・未来プロジェクト研究会」がこのほど「豪雨災害に関する緊急提言」をまとめた。提言作りは、20年秋から「日本の国土計画」のリーダーでもある中村英夫東京都市大学名誉総長(JAPIC副会長)が呼びかけ、国土交通省OBや大学人、民間の金融・損保などの専門家、建設コンサルタントなど15人を超すメンバーが参画して検討を進めた。
大きな柱となるポイントは―①地球温暖化により、急激に雨の降り方が変化してきており「観測・計測体制を強化し解明」する。同時に多くの人に分かりやすく発信する②民間投資資金を活用し、豪雨にあっても被災を免れるために「自助・共助・公助の総力戦」を展開する③都市部などを流れる河川堤防の高規格化、具体的なイメージとしては「堤防の頭頂部の幅を大きく広げて一帯を高台化し、洪水の不安のない街づくり」を進める(東京都内の先進事例)―の3つ。
民間団体の提言らしく、実行のために「霞が関の“省庁間の予算配分の壁”」や「河川管理部門と、まちづくり部門など、国土交通省内の“局の壁”」を乗り越える政策立案・実行とともに、民間の力も求めているのが大きな特徴だ。
■過去3年―「特大級の列島豪雨災害」
JAPICの緊急提言は「治水は100年の計」として取り組むと同時に「いま、すぐに手を付けなければならないこと」を強く指摘している。その背景には、過去3年間だけを見ても、気象が“狂暴化”していることがあげられる。以下はその実例だ。
▽18年7月西日本豪雨「平成30年間、最大の豪雨禍」――4日間、豪雨が断続的に降り続き、マスカットや桃など果物栽培が盛んな温暖の地、岡山で高梁川の支流である小田川が氾濫。土砂災害も各地で相次ぎ愛媛、広島なども含め1府13県で245人の死者・行方不明者を出した。「平成30年間、最大の豪雨禍」と言われる。台風7号が日本海に進んで温帯低気圧になった後、停滞していた梅雨前線と一体になり、広範囲に豪雨を降らせた。82年(昭和57年)の「7月豪雨と台風10号」以来、豪雨による犠牲者が200人を越えた。
▽19年10月東日本台風「長野で新幹線100両が水没」――東日本台風(台風19号)は関東、甲信越、東北など広範囲に記録的な大雨を降らせた。1都12県に「大雨特別警報」が発令され、国管轄と県管轄の河川で合計142か所もの堤防が決壊し、86人の死者・不明者を出した。決壊か所数は、大災害となった前年の「西日本豪雨」(27カ所)、15年9月の「関東・東北豪雨災害」(24カ所)に比べても格段に多く、破壊力が強くなっている。長野市内では千曲川の決壊で「新幹線車両基地」が水没し、 100両を超す車両が廃車となった。その後5カ月にわたり、北陸新幹線は本数を減らした運行を余儀なくされた。
▽20年7月梅雨前線豪雨「九州で線状降水帯9個、発生」――7月3日から約1か月にわたり、西日本・東日本を中心に、停滞した梅雨前線に流れ込んだ大量の「大気」が、広い範囲で大雨を降らせた。「線状降水帯」が9個も発生した九州では、水に換算して一時、世界の大河、アマゾン河の流量の2倍を超える毎秒40万~50万㎥の水蒸気が流入した。熊本県の球磨川流域では、24時間で400ミリを超す雨量を記録。上流の人吉盆地、下流の八代平野などで50人を超す死者・不明者が出た。浸水家屋も6,280戸に達した。球磨川支流の川辺川では、ダムに頼らない治水安全度の向上策を具体化する協議が重ねられていたが、その結論が出る前に数多くの犠牲者を出した。同じく九州の筑後川、山陰の江の川、東北の最上川などでも氾濫が発生した。
■「地域プロジェクト」から「豪雨災害提言」まで
JAPICは東京・日本橋の鉄鋼会館内に事務局を置く民間の経済、文化啓発団体。これまでも「20年から30年先の日本の将来を見据え、列島各地の経済と暮らしを活性化する具体的なプロジェクトを提案する」活動に取り組んでいる。
今回まとめた「緊急提言」は、20年12月9日に進藤孝生会長と「国土未来プロジェクト研究会」の藤本貴也委員長らが、国土交通省に赤羽一嘉大臣を訪ね手渡した。
「今後推進すべきインフラプロジェクト~コロナ禍を越えて、国土発展のために~」という表題で、豪雨災害に関する緊急提言のほか、「第2の青函トンネルの建設を求める提言書」なども含まれている。赤羽大臣は「民間から具体的な提言が出てくるのはありがたい」と応じた。