受賞者記念撮影

弁当作りを通じて子どもたちを育てる取り組み「子どもが作る弁当の日」にかかわる大人たちが、自炊や子育てを取り巻く状況を見つめる連載コラム。東京農業大学副学長の上原教授がSDGsコンテストを振り返る——。

2030年までに持続可能でより良い世界を目指すSDGs(Sustainable Development Goals)は、今や誰しもが知る地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓う国際目標ですが、SDGsを推進する東京農業大学でも、去る12月10日、「第一回東京農大SDGsコンテスト~未来への挑戦~」が、世田谷キャンパスにて行われました。7月下旬から全国の高校生を対象に、「SDGs」17の目標を1つと東京農大が掲げる「学びのキーワード」を1つ以上選択し、地域社会を良くするために自ら考えたこと、実際に取り組んでいること、学校で取り組んでいることについて小論文を作成する形で応募を始め、9月下旬には全国75校より384作品の応募をいただきました。予備選考、一次、二次審査を経て、11月に入賞の5作品が発表され、12月10日には、東京農大・世田谷キャンパス・アカデミアセンター・横井講堂にて、日々SDGsを自ら実践している江口文陽学長の挨拶を皮切りに、入賞5人の皆さんに作品のプレゼンテーションを行っていただきました。農林水産省畜産局総務課長の天野正治氏、TOKYO FM&JFN日本の農業を応援する番組「あぐりずむ」パーソナリティーの川瀬良子氏を外部審査員としてお迎えし、東京農大・副学長5人と共に最終審査を行い、最優秀賞1作品、優秀賞2作品、特別賞2作品を決定しました。

最優秀賞は、新潟県立佐渡総合高等学校2年生の仲村拓真さんの「『SDGs2飢餓をゼロに」へ向けて私たちにできること‐ザンビア共和国の子どもたちへの食料支援‐」でした。仲村さん達はアフリカ・ザンビア共和国の孤児院への単なる食糧支援ではなく、高収量のアジア稲と病害虫や雑草に強いアフリカ稲を交配させたネリカ米を無肥料・無農薬で栽培することを試み、収量を計算し、ザンビアでも栽培できるようにマニュアル化した方法をZoomにより現地の孤児院に伝えるなど、まさに持続可能な方法を考え、実践している点で大変優れていました。

発表する仲村さん

発表する仲村さん

優秀賞は、阿部悠さん(岩手県立花巻農業高等学校 3年生)の「二子里芋と毬花(きゅうか)を使用した長期保存可能ソーセージで農家さんの力に!」(SDGs9: 産業と技術革新の基盤をつくろう)で、年間3tも廃棄処分にされている二子里芋をソーセージの具剤として使用することを考え、更に長期間保存を可能とするため、ホップの「がく」である毬花から抽出した抗菌成分を加えることで賞味期限を延長する工夫を重ね、地域の企業と連携して製品化した点が評価されました。同じく優秀賞の岩村みのりさん(熊本県立熊本農業高等学校2年生)は「食品廃棄物を利用した持続可能な畜産経営の実践」(SDGs12: つくる責任・つかう責任)と題して、まず自給率が懸念される家畜飼料について、食品企業からのさまざまな廃棄物を利用し、その栄養バランスはもとより、健康機能が期待出来る成分の付加を試みつつ経費削減も可能としたエコフィードの開発や廃棄豚脂を利用したせっけんを製品化した点が優れていました。

特別賞は、杉山大樹さん(東京都・私立武蔵高等学校 2年生)の「東京農業大学と学ぶフードサイクル」(SDGs 4: 質の高い教育をみんなに)で、杉山さんは、日本の食料自給率の低下、世界情勢の変化に危機感を抱き、バリ島のグリーンスクールで体験したことから食育に対する意識を高め、正しい知識により食糧問題を解決するリーダー・人材の育成が必要と考え、東京農大の知見・設備を活用するフードサイクルを提案してくれました。同じく特別賞の池嵜亮太朗さん(愛知県立安城農林高等学校 1年生)は「ミニトマト生産、販売における食品ロス低減への取り組み」(SDGs12: つくる責任・つかう責任)と題し、大量に廃棄されるミニトマトに着目し、廃棄の原因の多くは裂果であることを調査し、その防止策を考え、裂果を9割低減することに成功しました。また、地域と連携し、規格外トマトを使用したメニュー開発に活かす取り組みについても評価されました。

審査員による最終審査が進められる中、会場では、東京農大で学んだことを活かし、現在、山梨県で野菜作りを行っている俳優の工藤阿須加さんと審査委員長の上岡美保副学長との特別対談が行われ、工藤さんには、俳優と農業の両立を図る中で、自身のSDGs活動に対する思い、東京農大に期待することなどをお話しいただきました。

入賞作品を選抜する事前審査や各賞を決定する最終審査の過程で、いずれの作品も素晴らしく、審査員はかなり悩みました。特に飢餓やフードロス、食糧問題を真剣に考えてくださる高校生が多く、今後、より重要となってくる問題解決力を有した人材への希望が持てました。

最後に、この場をお借りし、ご応募いただいた高校生の皆さん、外部審査委員の方々、関係の皆様に厚く御礼申し上げます。そして、このコンテスト自体も持続可能であるべきもので、来年も引き続き開催できればと考えております。また、新たな視点からの多くのご応募をお待ちしております。

上原 万里子(うえはら・まりこ)
 東京農業大学 応用生物科学部 食品安全健康学科教授。21年より同大学副学長。専門は食品・栄養機能学。骨・脂質代謝を制御する植物化学成分およびミネラルの生理機能学的研究を手掛ける。

#「弁当の日」応援プロジェクト は「弁当の日」の実践を通じて、健全な次世代育成と持続可能な社会の構築を目指しています。より多くの方に「弁当の日」の取り組みを知っていただき、一人でも多くの子どもたちに「弁当の日」を経験してほしいと考え、キッコーマン、クリナップ、クレハ、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、日清オイリオグループ、ハウス食品グループ本社、雪印メグミルク、アートネイチャー、東京農業大学、グリーン・シップとともにさまざまな活動を行っています。